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  「Edge」


 激しい衝撃を受け、視界が赤く染まる。掴んだ羽の感覚を最後に、エルの意識は途切れた――

 気がつくと、固い地面の感触があった。横たわったままで、エルは素早く周囲を窺った。幸い、敵の気配はない。ゆっくりと目を開け、エルは身を起こす。瞬間、激痛が突き抜けた。
 微かに眉をひそめ、エルは自分の状態を確認する。全身のあちこちに傷を負い、極限まで体力を使いきっている。握ったままの手のひらには、蝶の羽が使われないまま残っていた。見慣れた景色からして、現在位置はアマツの町の中。
 無言で蝶の羽をしまうと、エルは歩き始めた。動かない身体を引きずるようにして、近くの道具屋へと向かう。店に入ると、エルは目の前にあった梯子を上った。そこは屋根裏部屋で、物置になっている。荷物の間に隠れるようにして、エルがその場に座りこんだ。大きく、息をつく。
 道具屋の屋根裏は静かで、外の喧騒は聞こえてこない。静寂の中、エルは自らの身を庇うようにして、じっと体力の回復を待った。脳裏に、先刻の光景が浮かび上がる。
 戦っていた。倒せない敵ではないはずだった。しかし、数体に囲まれてしまった。エルの職であるアサシンは、一撃必殺を旨とする。反面、一対多数の乱戦には向かない。回避する余裕も与えられず、そのまま力尽きてしまったのだ。
 エルは自分の手を、顔の前に挙げた。乾いた血がこびりついたままの手を、じっと見つめる。女性らしく、さほど大きくない手に細い指。この手が刃を握り、敵を屠るのだ。

 ‥‥けれど、まだ。

 エルが手を握りしめる。きしむ身体よりも強く、貫く痛みがあった。表情を歪め、きつく目を瞑る。痛むのは心――まだ弱い、自分の心。
 もっと強くなりたかった。ノービスからシーフ、そしてアサシンとなっても、常にそれだけを考えてきた。敵を倒し、強くなり、さらに強い敵を倒して。誰にも負けない強さを手に入れたかった。たったひとつの目的のために。

 まだ足りない。もっと、強くならなければ。

 静かに息を吸い込み、エルは瞼を開いた。力尽きて倒れた際に、いくらかの経験が失われてしまっている。何としても、取り戻さなければならなかった。
 薄暗い部屋の中で、ジャマダハルを取り出す。この武器で、エルは幾多の敵を葬ってきた。冷たい刃を眺めながら、焦りに近い思考をやり過ごす。アサシンは冷静に、時に非情でなければならない。鋭く、強く、自らを刃とする者として。
 エルが立ち上がった。体力は、完全には回復していない。それでも、動くには充分だった。エルは下の道具屋でアイテムを買い、すぐに町を出ることにした。戦いながらでも回復はできる。今はとにかく、じっとしてはいられなかった。

 強くなりたい。
 自らの誇りを。いつか交わした約束を。かけがえのない存在を。

 守るために。


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