「Return」
唐突に渡された物を、エルはまじまじと見つめた。
「‥‥いいんですか?」
貰っても、と言いかけたエルの前から、相手がいなくなった。何やら抱えたその男は、頭にひまわりを咲かせた神官だった。エルの属するギルドのマスター、ツヴァイトである。
どうやら彼は、他の人にも何かを渡しているらしかった。忙しそうな様子に、エルは再び、貰った物に視線を落とす。――よく焼いたクッキーと、イグドラシルの葉。
一通りアイテムを配り終わって、ツヴァイトが声を上げた。
「白い日のお返しー」
何のことかと一瞬だけ考えて、すぐにエルは納得した。今日は3月14日、ホワイトデーだ。
「ありがとうございます」
エルが頭を下げる。そういえば先刻、ホワイトデーって今日だっけ? という質問に答えたばかりだった。たぶん皆にお返しをするために、ツヴァイトはクッキーを買ってきたのだろう‥‥イグ葉の出所は定かでないが。
そこまで考えて、ふとエルは首を傾げた。お返しを貰ってしまったが、そもそも自分は、バレンタインデーに何もしていない。貰ったものを返そうと思って、エルが顔を上げたその時。
「イグ葉も食べて良いのですか〜?」
のんびりした可愛らしい声が聞こえた。声の主はツヴァイトの隣に座るハンター、Lieserlだった。困惑しながら答えるツヴァイトを囲んで、数人がわやわやと盛り上がっている。アンデッドを昇天させたいとか、全滅パーティーのプリ以外生き返らせるとか。内容はともかく、なんだか楽しそうな様子に、エルの表情が緩んだ。
この「場所」は、温かい。
右も左もよく判らないうちに、プロンテラの酒場に来てしまった。冒険者としては未熟なエルを、酒場入り口辺りの面々は、温かく迎えてくれた。たったひとりで戦ってきたエルにとって、ここは一番大切な場所になった。
たくさんのものを貰っている。形がある物も、ない物も。――ならば、返さなければならない。自分に何ができるのか、どこまでできるのか、まだ判らないけれど。
いつか必ず、皆に返したい。
和やかな雰囲気を感じながら、エルは知らずに微笑んでいた。