[PR]当たる!無料占いで仕事鑑定:大人気!無料占い『スピリチュアルの館』

「Trade」

 首都プロンテラの一角、屋台の多く並ぶ通り。ここでは多くの冒険者が行き交い、集い、語らっている。花売りの少女の近くでも、ふたりの女性が隣り合って座りこんでいた。
「お疲れさまでした」
 清算を終えて、銀髪のプリーストが微笑んだ。その頭上に戴くコロネットが、穏やかな日差しにきらめいている。彼女は隣にいる女性に、お金と赤ポーションを手渡した。
「ありがとうございます」
 女性が一礼すると、肩で切り揃えた金の髪が揺れた。大きなリボンと、身軽な服。彼女は、闇に生きてきたアサシンである。その名を正しく知る者はなく、普段はエルと呼ばれている。
 そのまま賑やかな通りを眺めつつ、プリースト‥‥うけひめが呟いた。
「レア出なかったね」
「‥‥マフラーですか?」
 聞き返すエルに、うけひめは頷く。ふたりはつい先刻、フェイヨンから戻ったばかりだった。ダンジョンの地下4階で落ち合い、共に狩りをしていたのだ。そこで何体ものモンスターを倒したのだが、めぼしい物は手に入らなかった。目的は、ソヒーが落とすS1マフラーだったのだが‥‥。
 うけひめが1枚のカードを取り出す。エルにも見えるように示されたカードには、騎士のようなモンスターが描かれていた。レイドリックカード――かなり、高価なカードである。
「イミューンマフラー作りたかったなぁ」
 独り言のように、うけひめが嘆く。レイドリックカードの力を受けたそのマフラーは、無属性の攻撃を軽減することができるのだ。残念そうなうけひめの横で、エルが口を開いた。
「S1マフラー、持ってますよ」
 その言葉に、うけひめは笑いながら答えた。
「じゃあ、私が持ってるクイックマフラーと交換する?」
 もちろん冗談だったのだが、エルは普通に頷いた。
「はい。じゃあ、持ってきます」
「ちょ、ちょっと待って!」
 慌てて止めるうけひめを、エルは不思議そうに見つめた。もしかして、と思いながら、うけひめは言葉を続ける。
「S1マフラーって、クイックマフラーより高いんだけど?」
「そうなんですか?」
 エルが真顔で聞き返す。うけひめは内心、頭を抱えた。どうにもこのアサシンは、物の価値をわかっていないらしい。少し前にも、拾ったセイントローブ(もちろんS付き)を危うく店売りするところだったのだ。
「そうなの。だからそれは、木琴のためにとっておきなさい」
 木琴‥‥モッキングマフラーは、アサシンにとっては基本とも言える装備だった。念属性に弱くなる代わりに、高い回避力を身につけられる。需要が多い割に入手が難しいため、かなり高価な代物だ。それでも、S1マフラーがあるのなら、ウィスパーカードを手に入れれば、作ることができる。
 うけひめの言葉に、しかしエルは複雑な表情を浮かべた。もっとも、ごく僅かな変化でしかないが。
「木琴マフラーは、買おうと思っているんです。ウィスパーは狩りに行けないし‥‥」
 エルの言い分にも、一理あった。ウィスパーはダンジョンの中にしかおらず、今のエルの強さで狩りに行くのは難しい。まして、狩りに行ったところで、必ずカードが手に入るわけではない。むしろ、見つけることは困難と言えた。だからこそ、高価なのだ。
 エルは、うけひめに向き直った。
「だから、使ってください。必要な人が使うのが、一番だと思います」
 真剣な声と視線。うけひめは言葉に詰まった。確かにエルの言い分は一理ある。しかし、だからといって本当にクイックマフラーと交換するのは、さすがに気がとがめた。しばし考えて、うけひめは立ち上がる。
「わかった。ちょっと待ってて」
 言うなり、どこかに向かって走り出した。たぶんカプラ嬢のところだろう、と考え、エルも後を追った。マフラーも、倉庫に預けているのだ。忙しそうなカプラ嬢に頼んで、マフラーを取り出してもらう。ふと見ると、うけひめは何やらまだ交渉中だった。エルはひとりで、花売り少女の近くに戻る。
 待つこと少し。うけひめが、大量の荷物を抱えて戻ってきた。エルがマフラーを渡すと、うけひめは抱えたものをエルに次々と手渡し始める。
「えーと、まずこれがクイックマフラーでしょ。それから赤ポーションと鋼鉄とローヤルゼリーと虹色ニンジンに‥‥」
 あっという間に、エルは荷物に埋もれた。その重さに驚きつつ、エルがひとつひとつ荷物をしまっていく。横で、うけひめはマフラーにカードを差し込んでいた。
「イミューンマフラーできた〜♪」
「おめでとうございます」
 荷物整理の手を止め、エルが座ったままうけひめを見上げる。うけひめも嬉しそうにエルを見て、思い出したように口を開いた。
「あー、そのリボンもあげるわ」
「え、でもこれは‥‥」
 エルは頭に手をやった。頭に装備している大きなリボンは、うけひめからの借り物だった。前に、うけひめが大切にしていた装備だと聞いている。戸惑うエルに、うけひめは笑いながら手を振った。
「いーのいーの。私がもらいすぎなんだから、取っといて」
 その笑顔におされて、エルは反論するのをやめた。代わりに、深く頭を下げる。
「‥‥ありがとうございます」
 エルの手が、そっと大きなリボンに触れた。せっかく譲ってもらえたのだから、大切にしよう、と心に決める。その時、ふたりのギルドエンブレムから声が聞こえた。
『エルさん!』
 いきなりの声に、エルは慌ててエンブレムを確認する。声はギルドマスター、ツヴァイトのものだった。
「はい?」
 まだ会ったことのないマスターに、エルがやや緊張した声を返す。何事かと、うけひめが疑問の表情を浮かべた。ギルドエンブレムの向こうから、続けて声が返ってきた。
『駄目ですよ、カード店売りしちゃ』
(ええぇっ!?)
「すみません」
 うけひめが驚き、エルが謝る。さらに動揺しつつ、うけひめは隣のアサシンを見た。エルは申し訳なさそうに、ギルチャを続けている。どうやら、カードを店売りしようとしたのは事実らしいが。
(本当に大丈夫‥‥?)
 頼りないアサシンの行く末に、他人事ながら、うけひめは不安を覚えていた。


 エルがギルド入りして間もない、とある日の話。


[PR]子育てママさんへ:3年毎に15万円うけとれる保険?