
「Xing 〜crossing〜」
ダンジョンを出て、エルは空を見上げた。薄い灰色の空から、絶え間なく雪が舞い降りてくる。無言で、エルはそれを見上げていた。
今しがた出てきたおもちゃ工場からは、1本の線路が伸びている。その線路の傍らにある街灯の下に、エルは座りこんだ。辺りの寒さなど、全く感じていないように。
北の町、ルティエ。ここは一年中、雪が降り積もっている極寒の地だった。けれど、町の中は、どこか温かい雰囲気に包まれている。至るところにクリスマスの装飾があり、色とりどりの明かりがツリーを飾る。穏やかで優しく、何故か懐かしい景色。
エルがわずかに目を細めた。何かが、鈍く疼く。雪の町を見つめながら、エルは遠い記憶を思い返していた。まだ幼い子供の頃、クリスマスは楽しい日だった。教会で神に祈りを捧げ、両親と一緒にご馳走を食べて、貰ったプレゼントに喜んで‥‥。
ささやかだが幸せな出来事は、永遠に過去のものだ。平穏だった日々は、モンスターによって壊される。ひとりぼっちになった女の子は、モンスターを倒すことを心に決めた。そして、他の全てを捨てた。帰る家も、呼ばれる名前も。ときに、自らの命すらも投げ出すように。
ただ倒すために倒し、殺すために殺す。それだけを繰り返していた。
エルは線路に目を移した。そう、あれは雪の上を走る線路に似ている。エルは立ち上がり、ゆっくりと線路を辿って歩き始めた。しばらく歩くと、分岐点があった。線路はふたつに分かれ、先に続いている。
何もない世界を、たったひとりで走り続けた。‥‥あの日、出会うまでは。
『やー、そこのアサシンさん。見たところ、ギルドに入ってないようで』
雪のように美しい髪の、人好きのするプリーストだった。彼女――うけひめに誘われて、エルはプロンテラ南西の酒場を訪れた。そこで、全てが変わった。
たくさんの人と出会った。色々な話をした。進むべき道を教えられた。共に戦い、助けられた。
エルは続いていく線路と、その先にある景色に目を移す。あの日、雪を彩るクリスマスの飾りのように、世界に光が点された。女の子はもう、ひとりぼっちではなかった。今はこの世界を共に駆ける、大切な仲間がいる。
道は重なっていく。これからも、誰かと。
『こんばんはー』
世界のどこかから、ギルドメンバーの声が聞こえた。ひとりの挨拶に応えて、ひとりひとりの声がする。
『ばわー』
『こんばんは〜』
『こんー』
『こんばんはなのです〜』
雪の降り続く空を、エルが見上げた。同じ世界のどこかにいる皆に、遠く思いを馳せる。
「こんばんは」
響き合う声に重ねるように、エルも空に声を放った。